
Greco Cougar 1983年製
1983年、三鷹楽器が企画しGrecoに製作を依頼したショップ・オリジナルモデル、Cougar。
このギターのことは発売当時から記憶にあった。ギター雑誌に掲載された三鷹楽器の広告で見た、どこにも似ていない少々風変わりなGrecoだった。ただ通常のカタログ・モデルではなかったこともあり、その後実物を見ることもなく、詳しい仕様については知らないままだった。40年以上を経て手に入れた個体には、幸いにも三鷹楽器発行の「COUGAR 仕様説明書」が残されていた。これを読むと、このギターが単なる限定モデルではなかったことがよく分かる。
説明書の冒頭には、
「世界最初のスプルーストップ!! それがクーガーです。」
とある。
さらに「三鷹楽器の本当のオリジナルを作ろう」と題し、当時のエレキギター市場が有名ミュージシャンの使用楽器を模したコピー・モデルを中心に動いていたことに触れたうえで、それだけでは満足できず、「本当に楽器を考える楽器店としてのオリジナルギター作り」を目指した、と製作意図が記されている。
その思想は仕様にもはっきり表れている。
ボディは6mm厚のブックマッチされたスプルース2Pトップに、ワンピース・マホガニーのバック。バイオリンやチェロなどに使われ、倍音を生かす材であるスプルースをソリッドギターのトップに用い、マホガニーと組み合わせるという発想で、三鷹楽器自身はこれを「世界で最初の試み」としている。
シングルカッタウェイを採用したのも単なるデザイン上の理由ではない。ダブルカッタウェイよりボディとネックの容積を大きく取ることによって「太い音」を得ようという考えからだったという。さらにネック接合部をむやみに削ることを避け、弦振動をボディ全体へ伝える部分を十分に残しながら、最終フレットまで弾きやすくする独自のカッタウェイ形状が考案されている。
ネックは'60年型Les Paulを意識したマホガニー製で、ヘッド角は14度。指板には黒檀を使用し、白蝶貝のインレイが入る。ヘッドには三鷹楽器創立年を示す「1965 MITAKA」の文字とイーグルのインレイが施され、通常のGrecoとは明らかに異なる顔を持つ。
ピックアップにはGreco DRYを2基搭載。仕様書では1958年型PAFを意識したPUであることが強調されている。コントロールは2ボリューム、1マスタートーン。
塗装にもこだわりがあり、仕様書では薄い塗膜によって木材の鳴りを妨げないことを狙ったフィニッシュと説明されている。全体を通して感じられるのは、装飾や高級感以上に「弦の振動をいかに殺さず、楽器全体を鳴らすか」という考え方である。オリジナルのペグはGrover Imperial。私の個体では同じGroverながら、一般的な三角形に近いボタンを持つタイプへ交換されている。オリジナル性という点では惜しいところだが、実際に使うにはこちらの方が扱いやすく、これはこれで悪くない。
Cougarは通常のGrecoカタログに並んだ製品ではなく、三鷹楽器の企画による100本限定モデルだったとされる。Grecoの製造技術を使いながら、楽器店側が自分たちの考える理想のギターを形にした、1980年代初頭ならではの一本である。
発売当時、雑誌の広告で眺めていた「変わったGreco」が、40年以上後になって取扱説明書とともに自分のところへやって来た。
私にとってCougarの面白さは、その希少性以上に、当時の三鷹楽器が「コピーではない自分たちのギターを作ろう」と本気で考えた、その痕跡が今も一本の楽器として残っていることにある。(2026.8.16)
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