
Bill Lawrence/H.S.Anderson Guitars
1980年代後半、私自身もギターとともに過ごしていたが、当時のBill Lawrenceに良い印象を持っていたわけではない。とくに気になったのがヘッドのデザインだった。Fenderの完成された美しいシルエットを、わざわざ崩してしまったように見えた。店頭で見ても積極的に手に取ろうとは思わず、今にして思えば完全な「弾かず嫌い」であった。
それから数十年が過ぎた頃、今はもう閉鎖されてしまったあるウェブサイトで、Bill Lawrenceのギターを熱心に収集し、高く評価している人の文章を読んだ。
そこで語られていたのが、ブラックラベル・ピックアップの音の個性と、Morrisのギター製作で培われたモリダイラ楽器の工作精度だった。少し興味を持ち、実際に一本手に入れて弾いてみた。
「なんじゃこれは。良いギターじゃないか。」
それまで抱いていた印象は、かなりあっさりと覆された。
ブラックラベルPUには、はっきりとした癖と存在感がある。そしてギターそのものは、派手さこそないものの、木工も組み込みも実に精密で、妙な遊びや曖昧さがない。Morrisを作ってきたメーカーの仕事なのだと考えると、なるほどと思わせるものがあった。外観だけを見て敬遠していた頃には、まったく気付かなかった部分である。
Bill Lawrenceというブランドは、世界的なピックアップ・デザイナーBill Lawrenceの名を冠し、日本ではモリダイラ楽器によって展開された。しかし、モリダイラが個性的なエレクトリックギターを作ったのはBill Lawrenceが最初ではない。
それ以前から存在していたのがH.S.Andersonである。
H.S.Andersonは1973年、グレコ、アリア、フェルナンデスなど数多くのメーカーでギターや周辺機器の企画・設計に携わったことで知られる椎野秀聰氏が、モリダイラ楽器と共同で立ち上げたブランドである。後年、Mad Catが故Princeの愛器として知られるようになり、現在では海外にも熱心な愛好家がいる。
このブランドには、もうひとつ面白い逸話がある。
椎野氏の著書『僕らが作ったギターの名器』によれば、H.S.Andersonは独立した大きな工場を構えていたわけではなく、モリダイラ本社工場から少し離れた小さな工房で製作されていたという。そこで働いていたのは、モリダイラでも腕利きとされた木工と塗装の職人各一名、それに若いアシスタント一名という、わずか三人のチームだったという。しかも、この二人の職人は腕は抜群だったものの相当に個性が強く、本社工場では少々扱いにくい存在でもあったらしい。それがH.S.Andersonの工房に移ると、水を得た魚のように仕事を始めたという。椎野氏が記している彼らのギター製作技術は、文字どおり職人芸と呼びたくなるようなものだったらしい。
こうした背景を知ると、H.S.Andersonの少し奇妙なほど個性的なギターにも納得がいく。なかでもMad Catは、Telecasterを思わせる基本形を持ちながら、木材の組み合わせやピックガードを含め、一目でそれと分かる独特の外観を持っている。Princeが使ったことで世界的に知られるようになったギターではあるが、それ以前に、1970年代の日本で「単なるコピーではないギターを作ろう」としていたこと自体が面白い。
H.S.AndersonとBill Lawrence。年代も成り立ちも違う二つのブランドだが、実際に手に取るとどこか共通したものを感じる。デザインにはかなり癖がある。しかし、ギター作りそのものには遊びがない。Bill Lawrenceについても、FenderやGibsonの様式を下敷きにしながら、ヘッド形状、ピックアップ、配線などには独自の考えが持ち込まれている。かつて私が嫌ったあのヘッドも、今となってはBill Lawrenceを一目で識別できる個性に見えてくる。
一本を手にして印象が変わり、もう一本試してみたくなった。そして一本が二本になり、二本が三本になった。気がつけば、ずいぶん増えていた。若い頃には魅力が分からなかったギターを、数十年後になって改めて評価する。ギターを長く見ていると、こういうことが時々ある。Bill LawrenceとH.S.Andersonは、私にとってその典型のようなブランドである。

















